墨の選び方〜墨の基礎知識③〜 | 文房四宝 雲岑堂

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墨の選び方〜墨の基礎知識③〜

墨のサイズについて

墨を選ぶ場合漢字用なのか仮名ようなのか大きい作品を書くのか、持っている硯の大きさはどうかによる。小さい硯しか持っていないのに大きい墨を買っても持て余すし、大きい硯を持っているのに小さい墨では効率が悪いし硯の池いっぱいにするのは大変な労力と時間を要するだろう。そこでまず墨のサイズについてみてみよう。

墨のサイズの表記は日本と中国で異なる。日本の場合は一丁型(いっちょうがた)を基準とし二丁型、三丁型と大きくなる。対して中国は逆で一斤型(いっきんがた)を基準にして二分の一斤型、四分の一斤型と小さくなるのである。

墨の大きさ縦の長さ(mm)横の長さ(mm)厚み(mm)重さ(g)
一丁型7819815
二丁型92241130
三丁型105281245
四丁型120311360
五丁型135331375

(奈良墨「錦光園」HPより作表しました)

和墨の大きさは一丁型、二丁型と呼び、一丁は15グラム。唐墨の場合一斤型が500グラム、二分の一斤型が250グラム、四分の一丁斤型が125グラム、八分の一斤型が62.5グラム、十六分の一斤型が31.25グラム、三十二分の一斤型が15.625グラムとなる。(天来書院『筆墨硯紙事典』を参照しました)

左から「胡麻油煙墨 明鏡止水 5丁型」、「椿油煙墨 獅子王 4丁型」、「純菜種油煙墨 良寛 3丁型」、「長楽 2丁型」、「純菜種油煙墨 面壁九年 1丁型」

墨の種類について

墨は煤(すす)と膠(にかわ)と香料から出来ている。従って一般的に煤(すす)の種類によって「油煙墨」(ゆえんぼく)と「松煙墨」(しょうえんぼく)に分けられる。

現在一般的なのは油煙墨で器に菜種油などを入れ、芯を入れて燃やし炎の上を覆う蓋についた煤を使うのである。現在の油煙墨は重油・軽油・灯油も多く使われる。しかしながら、化粧品でもそうだろうが鉱物由来の物より植物由来の方がイメージが良い。そのためか高級品は墨も「菜種油煙墨」(なたねゆえんぼく)や「胡麻油煙墨」(ごまゆえんぼく)あるいは「桐油油煙墨」(とうゆゆえんぼく)、「椿油煙墨」がある。

「松煙墨」は松やにの吹き出た松材を使う赤松の幹に傷をつけ数ヶ月放置したのち松やにの部分を削り取り部屋の中で燃やす。天井や障子についた煤を採るという地道な作業により作られることからほとんど作られなくなっている。そのため大変貴重になってきている。

「油煙墨」は磨り口は光っているのに対し、「松煙墨」は磨り口が光っていない。また「油煙墨」は磨ると色味は茶色や赤みを帯びた黒となるが、「松煙墨」は青みがあるので、水墨画を描く人など特定のファンがいるようだ。

ここまで墨のサイズと原材料を見てきたが、実際墨を選ぶとなると重要なのは何に使うのかである。つまり用途である。「かな・細字用」となるとさらさらと書けるよう伸びが良いものとなるし、大筆で書くのと違い大抵少量しか使わないので磨る墨も1丁からせいぜい2丁のサイズとなろう。「写経用」についても「かな・細字用」同様細かい字で書くことから伸びの良い墨が向いているが、仮名書きと違い黒みの強い物が適している。伸びの良い墨となると粒子の細かい墨で煤自体細かいものとなり「漢字・大字用」と比べて高級品となってくる。小さいサイズでも高価となるのである。「漢字・大字用」はやはり使う量が多くなるから硯も墨も大型となってくる。また黒味の強いものが一般的に好まれよう。

この記事の著者

雲岑(Un-shin)

1964年生まれ。学校の習字の時間は苦手だったが、小学生の時分よりくずし字等に興味があった。大学卒業後都内某信用金庫に勤務。令和に入り、写経をきっかけに書道に興味を持ち、コロナ禍の自宅待機の機会に独学で書道に没頭し始め、硯で墨を磨ることが楽しくなる。2023年定年を前にサラリーマン生活に別れを告げ、同年9月より書道用品店を開業する。残りの人生を書道具の販売を通して書道文化の継承発展に寄与したいと考えている。

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